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2024年1月号より

1988年度生 樋口 真佳

私立親和女子高校からサウスダコタ州デルモント高校に留学。
慶應義塾大学総合政策学部卒業後、TBSに入社。以来、報道局で記者として首相官邸、外務省、自民党、アメリカ大統領選などを担当。会社からの派遣でニューヨーク大学大学院に留学し、修士号を取得。

IF留学・番外編~後から届くプレゼント

 今、留学中の皆さんは、アメリカ生活、カナダ生活も折り返し地点を過ぎ、慣れたころでしょうか。「まだ、なかなか馴染めない」、「今、ちょっと上手くいっていない」という人がいたら、お勧めは、一日ひとつ「ここに来て良かった」と思えることを、どんな小さなことでも良いので見つけることです。先生や友達のちょっとした心遣い、新しい英語の言い回しを覚えたこと、美味しいお肉、雪景色…等々、何でもよいです。短く書き残していくと、より意識できるかもしれません。
 私は1988年から10か月間、IFを通じてアメリカ中西部サウスダコタ州デルモントでホームステイをしました。人口300人余りの小さな町で、通っていた高校は、私の卒業と同時に閉校になりました。
 人は少なくても、クラスメイトたちは、「最近つまらないから、自分たちで楽しいことをしなきゃ」とイベントを企画するなど、生活を充実させることに能動的でした。探しても、「ここに来て良かった」と思えることが見つからなかったら、自ら作ってみる方法があるということです。パーティや遠出を提案するのはハードルが高くても、これまであまり話したことのない人に話しかけるだけでも、何か発見がありそうです。
 そして、留学生の中には、「想像と違う」と戸惑っている人がいるかもしれませんが、そういう所にも宝物は隠れています。振り返ってみると、IF留学で私が得たものには、出発前は予想しなかったことが少なくありません。

 先日、東京で再会したスイスの友人、アンとの出会いもそう。彼女は、私がIFで留学時、スイスから隣のノースダコタ州に留学していて、外国人留学生の交流会で知り合いました。当時はSNSはもとよりメールさえ一般的でなく、帰国後の連絡手段は手書きの手紙のみ。それでもやり取りは続き、私はスイス・ベルンの彼女の家や、その後のコロラド州の留学先も訪ねました。彼女の友人が私の勤務先、TBSのベルリン支局で働いていることが分かったり、講演のため来日した彼女のお父様を東京で案内したりもしました。
 今回は初めての日本訪問。年末からご主人と、語学留学中の息子さんと共に各地を旅行し、最後、今年の年明けに3人でうちに滞在してくれました。都心の狭い我が家ですが、それでも自宅で手料理でもてなせば喜んでくれるのではないかという発想は、IFでの留学経験がなければ持てなかったかも知れません。駅に迎えに行った際は、サウスダコタのホストファミリーが私にしてくれたように、手作りのウェルカムボードを両手で掲げました。
 さらに素敵な女性になっていたスイスの友人、アン。息子さんは今東京でホームステイをしていて、「自分がアメリカでホームステイしていた頃を思い出して、若返った気分」と。話題は思い出話から仕事、家族、世界情勢にまで及び、とにかく楽しかったです。物持ちの良い彼女は、私が昔送ったカードや絵葉書を持ってきていて、20代のころの若くて恥ずかしい文面に、新宿御苑を一緒に歩きながら大笑いしました。
 そもそも私の交換留学の目的は、アメリカでホームステイし、英語も習得することでしたが、数十年経って、スイスの友人とのこんな素敵な時間ももたらしてくれました。
 なお、アンが新幹線のチケットが取れずに困っていた時、私が相談したのは、IFの後輩で、ボランティアで外国人旅行者のガイドをしている現事務局長の杉山尚子さん。スイスに長く住んでいた同期の木村浩之君からは、スイス人が喜びそうな食事についてアドバイスをもらい、IF卒業生との心強い交流も続いています。

 IF留学時には特に気に留めなかったことが、記憶のどこかに残っていて、その後、人生の大きな節目で思わぬ知恵を授けてくれたこともありました。これについては、また別の機会にお話ししましょう。
 留学中のIF生の皆さんは、今後、様々なことを経験するでしょう。その中には、今はあまり認識しなくても、帰国後、あるいは数十年経ってから、大きなサプライズ・プレゼントとなって届くものがきっとあるはずです。そちらも、どうぞお楽しみに。

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