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2022年1月号より

1982年度生 小島 あゆみ

(県)高崎女子高校からニューハンプシャー州へ留学。
そのときに学んだことが人生のベースになる。横浜国立大学大学院(教育心理学専修)修了後、大学や研究所で臨床心理の仕事を経て、中学・高校で英語を教える。
出産後、子育てと両立できる営業の仕事にもかかわり、現在は不登校の生徒に個別指導をしている。
「ALLYになりたい~わたしが出会ったLGBTQの人たち」著者


知らないことから、すべては始まる

 「え、ニューハンプシャー州なんて聞いたこともない。一体どこにあるの?」
 留学先の通知を受け取ったとき、これがわたしの第一声でした。すぐに、アメリカの地図を片手に必死に探しました。ニューハンプシャー州は、わたしが知る西海岸のカリフォルニアや南部テキサスでもなく、それは東海岸ボストンの近く、北はカナダに接するとても小さい州でした。ようやくみつけた喜びと共に「笑顔いっぱいのホストファミリー」の写真を見つめていました。そして、このホストファミリーとの出会いが、わたしの人生を豊かにする、すべてのはじまりだったのです。
 高校生で留学することは、わたしの大きな夢でしたが、当時のわたしはまだ知らないことばかりでした。アメリカ北東部にあるこの小さな州が、アメリカで最も歴史のある独立13州のひとつであること、ニューハンプシャー州の港町ポーツマスが、日露戦争の講和条約を結んだ地でもあり、日本史にも出てくる有名な場所ということも知りませんでした。
 さらに日本についても、無知な自分がいました。留学準備のため日本の知識を身につけたつもりでいても、いざ質問されるとわからずに後から調べたり、最初のうちはすべてのことに、とても緊張しました。それでも、少しずつ英語にも慣れ、日本文化を伝えようと書道や茶道、和食つくりをしたことで交流が生まれ、励ましの言葉をもらったことはよい思い出です。

 2021年秋、わたしは本を出版しました。その原点は、この高校留学であり、その後40年にわたるホストファミリーとのつながりを通して、その本は生まれました。高校留学から始まったそのつながりで、わたしの人生はアップデートされたのです。
 本のタイトルは、「ALLYになりたい~わたしが出会ったLGBTQ+の人たち」です。性的マイノリティ(LGBTQ+)については、最近日本でもよく知られる言葉になりました。しかし、「ALLYアライ」という言葉は、まだ広く知られていません。ALLYは、性的マイノリティの「味方、同盟者、支援者」を意味します。航空会社でも使われるAllianceアライアンス(同盟)から連想するとわかりやすいかもしれません。ALLYには性的マイノリティと同じ方向を向いて、一緒に問題に立ち向かうイメージがあり、ALLYになることは多様性を認め、差別や偏見に敏感になることでもあります。今ではALLYは性的マイノリティだけでなく、すべてのマイノリティの支援者という意味に広がっています。

 「え、こんなことってあるの?」、2001年に送られてきた「結婚式の写真」を見たわたしの第一声でした。ホストシスターのキャロルの隣にいたのが、同性のパートナーだったからです。当時のわたしは、性的マイノリティについて何も知りませんでした。その後、わたしと夫、娘たちかぞく皆でサンフランシスコに行き、キャロルとパートナーのジェイミー、息子のルーワンと会い意気投合します。こうして、キャロルとジェイミーをはじめ、同性カップルやLGBTQ+の人たちのことをもっと知りたいという思いから、本やネットの力をかりて基礎知識を増やしていきました。
 性的マイノリティの人たちは、アメリカには10人に1人、日本では11人に1人存在すると言われています。左利きやAB型と同様、あなたのすぐそばにいるかもしれません。しかし、カミングアウト(自分が性的マイノリティと周りに伝えること)しなければ、その存在がわからないので、サイレント・マイノリティとも呼ばれています。アメリカと日本で「にじいろファミリー(同性カップルのかぞく)」にインタビューすることで、わたしは新しい世界を知りました。LGBTQ+の人たちが、社会の理不尽な法律、差別や偏見にくじけることなく、自分の望む幸せをつかんでいく姿に感動しました。そして、自分を愛し、かぞくを愛し、「なりたい自分」になって、生きている姿に力をもらったのです。

 今から思えば、留学はマイノリティになる経験でもありました。外国に住めば、言葉は不自由になり、自分の考えや感情をうまく表現できません。もどかしく、時にはつらい経験になります。また、食事の仕方から学校生活まで、あらゆることが日本とは違うので、知らないことばかりです。わたしが留学で学んだことは、「周りの人と自分を比べても意味はない」「自分は自分のペースでやっていけばいい」「助けを求めれば、支えてくれる人は必ず存在する」そんな前向きな考え方です。
 人は、迷ったとき、困ったときに、はじめて自分自身や社会について気づき、考えます。このように、留学は人を成長させ、自分自身や自分の国を客観的に見つめ直す絶好のチャンスなのです。成長著しい高校生が、ホストファミリーと共に生活し、かぞくの一員になることは、非常に特別なことです。留学して身につくのは外国語(英語)の習得はもちろん、家族との生活を通して異文化に心をひらき、多様性を受け入れる寛容さを身につけていきます。外国でのチャレンジは、勇気と忍耐力を養う体験でもあります。これらのことは、ALLYになる近道であり、グローバル化するこの世界で、必要とされることばかりではないでしょうか。
 さらに、留学で知った「驚き」は「新しい世界を知る喜び」に進化します。わたしは、高校留学から何十年経った今でも、ホストファミリーとつながり、ホストシスターの助けをかりて、本を出版し、それをプロモートするという、自分では想像もしなかった道を歩んでいます。実をいうと、わたしの両親は、高校留学は受験に不利という理由で反対でしたが、留学後のわたしの姿をみて「留学して本当によかった。留学は、あなたの宝物になった」と言ってくれました。さらに、この本が出版されて、アメリカと日本、両方のかぞくや友人が大喜びでお祝いしてくれたこともうれしいプレゼントとなりました。

 コロナ・パンデミックの中、これまでにない孤独感、不安や心配もあります。それでも、留学したいという思い、自分の夢をあきらめないでください。そして、自分が好きなことをみつけたら、それを育てていってほしいです。わたしの「留学したい思い」は、IFのおかげで現実となり、その留学によってわたしの人生は、今もなお、進化し続けています。キャロルも大学で美術を専攻し、スタジオを持つアーティストです。私たちの次の夢は、日本で性的マイノリティの人たちを身近に感じてもらい、ALLYを増やすために東京でキャロルの個展をひらくことです。それまでに、この本が多くの人に読まれるように今後も活動していきます。「留学は、その時だけでなく、その後もずっとつづく未来の扉を開いてくれるものなんだなぁ」とイメージしていただけたら幸いです。
 みなさんには、これからもずっと自分の望み、夢を素直な気持ちで大事にしてほしいです。どんな状況でも、あきらめずに、留学する仲間と支え合いながら、「好きなこと、やってみたいこと」にチャレンジしてみてください。知らないことばかりでも大丈夫。可能性は無限大です。

※注「かぞく」と漢字ではなくひらがな表記にしているのは、日本の戦前(1945年以前)にあった家制度にとらわれない、個人をだいじにする多様性のある「かぞく」を言い表したい、という思いによるものです。

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