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2014年01月号より

2004年度生 佐々木 智 裕

(私)桐朋高等学校よりKansas州に留学
(国)東京外国語大学英語専攻卒業
三井物産株式会社 エネルギー第二本部 再生可能・新エネルギー事業室 勤務

将来の自分へ 

日本からChicago空港まで12時間、そこからTexas州のAmarillo空港まで5時間、さらに車で3時間走らせたところに、私が留学生活を過ごしたKansas州Elkhartがある。もう10年近く前の事になるが、その地で過ごした日々の事を、今でも鮮明に覚えている。
 私がまず御伝えしたい事は、「留学での経験に一つとして同じものはない」という事。家族や友人、先輩など、周りの言動に気持ちを左右されやすいのが留学前・留学中の心境であろうが、人が違えば誰一人として同じ経験をする事はない。即ち、他の留学メンバーが自分よりも活躍している様に思えたり、物事が諸先輩の話していた通りに進まなかったとしても、気にする必要性は全くない。自分が正しいと信じる方向に描いていける事が、留学の最大の醍醐味である。
 しかしながら他方で、当該留学経験を振り返ってみた時に、「単なる留学経験」で終わらずに「将来の自分に繋がる留学経験」をした人には『一定の共通点』が有る様にも映り、この点を中心に小員の経験を以下で詳述したい。
 振り返れば、当時高校一年生だった私が留学を希望した理由は、「物事への判断基準(比較できる何か)を持ちたい」と考えた為であった。つまり、留学という異なる環境下での経験が、自己の中で「比較」の概念を形成し、自分なりの「価値観」を構築する上で、非常に有効だと思ったからである。(例えば、こっちの方が良い/好きだと物事を比較して考えられるのは、その反対の概念、即ち良くないもの/好きでないものを知っているからこそ。この点、良い意味でも良くない意味でも日常と異なる経験をする事が、自己の中で比較対象を形成し、しいては自分の軸を持つ事に繋がるのでは。と当時考えた。)
 そんな思いを胸にいざ留学してみると、様々な人種・文化・宗教が独特に融和し流れる空気、どこまでも続くかの様に見える大地、互いの自己を尊重し己を問われ続ける家族関係など、アメリカでの生活は、正に非日常との出会いの連続であった。始めは、日本で培われていた“自分の常識”とのギャップに驚嘆・嗟嘆ばかりであったが、暫くするとアメリカでの生活にも慣れ始め、そこでの多様な経験から少しずつ物事を比較して考えられる様になっていった。これを自己の変化、また成長であると実感する一方、異なる環境下に身を置いて暫く経つにも関わらず、一定の軸をもって善悪・好嫌を判断するには未だ不安定さが残る自分に、漠然とした不安を抱くようになってきた。
そんなある日、現地の親友に何気なく別荘に誘われ、二つ返事でYesと答えた私だったが、今思えば、この誘いが自分にとって一つの大きな転機(Landmark)になっていたのかもしれない。
 いざ別荘に着けば広大な荒野の中に、一際目立つ一軒家。中に入ればプール付きの庭に螺旋階段にシャンデリアという典型的な大豪邸で、聞けば近くの飛行場に自家用ジェット機も有るという。余りに桁違いな生活に驚きを隠せないでいる私を見て、もっと面白いものを見せてやると言う彼。言われるがままに近くの小さな丘まで着いて行くと、眼下には360°地平線の奥まで果てなく荒野が広がっている。
 「見えるかTom(私の事)。此処から見える土地・施設・家畜、全て俺のものなんだ。なんでか分かるか?向こうの方で人がたくさん働いている所があるだろう。あそこから、Oilが出てるんだ」。
私の中で、衝撃が走った。当時、漠然とエネルギーミックス・エネルギー安全保障といった話題に触れてはいたものの、豪華絢爛な彼の家、その後に見せられた輸送用タンカーの大きさ、掘削施設で働く多くの人々を目の当たりにし、初めて身近な話題として、エネルギーの莫大な力を体感したのだった。この時、漸くエネルギーが何たるかがストンと腑に落ち、自分の中で一つの「軸」が形成された気がした。
 日本は資源小国と言われて久しいが、今後、新たなエネルギー転換を迎える未来に、日本が「新エネ」で資源大国たれば、日本経済に多大な裨益をもたらすと確信している。長期的視野が求められ、巨大なリスクの荒波の中で取り組む新エネ開発で「資源小国の日本」を『資源大国の日本』に変革し、自らの可能性を試し成長させたいと思った事、これがあの日以来、自分の原動力となっている。
 実際に社会に出てみると、再生可能・新エネルギー事業は学生時代に描いたほど容易なものではなく、新しいものを産み出す苦しみを実感する毎日ではあるが、留学時代に体感したあの衝撃は今も変わらず胸の中にある。
 冒頭にて、留学に一つとして同じものはないと御伝えした通り、当方の経験はほんの一例にすぎないし、人それぞれ異なる経験をするのだからこそ、留学を一つのモラトリアムと捉えて自由気ままに過ごすのも良い。但し、そんな中でも、「単なる留学経験」で終わらずに「将来の自分に繋がる留学経験」をした人には、『留学中に本気で人生の軸を模索したか』という一種の共通点が有る様に思われる。今の留学を真に実り多きものとし、将来の自分へ何かしらの原石を残せる様、是非ともこの点を御留意されたい。
 本留学が皆様にとって素晴らしいものとなり、輝かしい将来の権輿となります事を心より祈っております。

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