>> サイトマップ


2024年8月号より

1988年度生 我孫子洋昌

道立札幌南高校から、カナダ・サスカチェワン州に留学。
国際基督教大学卒業。同大学院博士前期課程修了。松下政経塾を経て、北海道科学技術総合振興センター、下川町ふるさと開発振興公社、株式会社エフエムなよろ等で勤務。現在は、一般社団法人集落自立化支援センター代表理事を務める傍ら、社会福祉法人で共同生活を送る方が暮らす寮で非常勤宿直員も務める。2011年から北海道下川町議会議員(現在3期目)。2023年からは議長を務める。

88年度生がいま思うこと

 事務局長より「IF生が帰国して留学生活を振り返る頃のNewsletterの巻頭言をお願いします」と言われましたので、いろいろと思い出してみます。参考になるのか、反面教師となるのかはわかりませんが、こんなIF生もいたんだなぁ…と、読み進めてください。

 自分は、高校3年在学時に留学したので、帰国後、高校へ挨拶に出掛けたところ、「このまま卒業しても良いし、3月の卒業式まで通うという選択もあるよ」と言われ、2回目の高校3年生を選びました。カナダでも途中からはGrade12の一員として過ごし、卒業式にも出席したので、本人の感覚だと3回目といった感じでした。新しいクラスメートと残りの高校生活を過ごし、大学へと進学することができました。

 進学先を選ぶ時には、家族とも議論になりました。議論というとカッコいいですが、父と自分の言い分を、それぞれ母が伝言するというやり取りでした。「道内で進学すればいいじゃないか」という父親の考え、自分としては「可能性を探るためにも道外へ、可能なら海外の大学も視野に入れて進学先を選びたい」という考えが衝突してしまいましたが、2回目の受験で自分が志望していた大学に進学することができました。「国際的な視野を身に着け、海外とやり取りできるような仕事もしたい」と大見えを切って進学したものの、1年そこそこの交換留学で取得した英語力とはレベルの違う、複数言語もペラペラと話す学生と出会うなど、相当なショックを受けた自分は、“Think global, Act local” などという都合のいい言葉をどこかで拾ってきて、「よし、世界のことは彼らに任せた。自分は北海道に戻って暮らそう」という考えに変わっていきました。

  そんな学生生活を過ごす中でも、様々なIFの行事の手伝いに出掛けて、先輩や後輩のIF生から刺激を受けたことや、カナダ留学を経験したIF生を中心にカナダを学ぶサークル活動をしたことも懐かしく思い出します。もちろんホストファミリーの存在もそうです。自分の両親や弟と、カナダのホストファミリーを訪れた際には、よっぽど印象深くて思い出に残ったのか、その時の写真を母が遺影に選ぶ(父も同じ写真を選びましたが、サングラスをかけていたので泣く泣くNGでした)など、両親が亡くなった後もそれぞれの知人から、「息子がカナダに留学したおかげで、現地の住宅に泊まるような旅に行けた」というのを、自分の両親が事あるごとに話していたとそれぞれの知人から聞きました。

 どうやら、個人的な思い出話に傾いてしまいました。帰国したばかりのIF生向けに、目の前に迫った進路選択や、どういうプロセスで職業を選び、そのための歩みを続けていくのかというのが今回の主題でしたね。自分に置き換えると、“北海道で何をするのか”ということです。これは未だにゴールにたどり着かない課題です。たぶん、一生かかっても成し遂げられないものかもしれません。高校生のころに考えていた将来像、留学を経てモノの見方に変化が加わった将来像、自分とは何者か、何に向いているのかを模索しながら、現在に至っています。大学の卒業論文を書いている頃は、「住民の顔が認識できるくらいの規模の北海道の田舎町で、町の運営に関わることをしたい」という、ボンヤリとした想像をしていましたが、2024年の夏の自分は、町議会議長として人口3,000人弱の町で町政に関わっているので、傍から見れば、紆余曲折しながら30年前の自分が思い描いていた姿に近づいているのかもしれません。

 今年の6月には、ホストファミリーと約20年ぶりの再会を果たすことができました。ホストファーザーはコロナで他界してしまったため、最後のやり取りがオンラインだったのが悔やまれますが、引き続き、彼らとの交流は続けていきたいと思っています。カナダでの同級生が息子さんを連れて日本へ旅行に来た際に、道内を案内することができたのも、懐かしい思い出です。帰国したばかりのIF生に伝えたほうが良いと思うのは、このあたりですね。今から留学前にさかのぼって、IF留学の1年を記録に残すとか、思い出ノートを作るというのは難しい作業になると思います。まとまったものがあると、IF生募集の説明会やオリエンテーションでは役立つかもしれませんが、いまの皆さんは、前を見て、将来に向かって幅広く可能性を追求するための体力、周りの人を(それなりに)納得してもらうだけの説得力、世の中で暮らしていけるコミュニケーション能力を磨いていってほしいと思います。

 進路の選択や目標に向かうプロセスは、人それぞれですが、ホストファミリーや留学先の友達との交流は、どんなに細くても続けたほうが、あとで再会の嬉しさが大きくなります。1987年に、たまたま教室の掲示板でIF生募集の案内を見なかったら出会うことのできなかった大切な友人、知人とのやり取りが様々なかたちで続いています。留学生活の期間中や、その直後には気が付かなかったこと、見えなかったことも、時間が経つと思いが及び、振り返ることができるようになると思います。まとまらない巻頭言になりましたが、こんなIF生もいるんだなぁと心の片隅に置いておいてください。いつかどこかで、2023年度生の皆さんとお会いできることを楽しみにしています。IF留学の1年は、みなさんの、これから長い人生の中でわずか1年ですが、のちのち、色々な場面で大きな影響をもたらすのだと実感します。これは、その場面を迎えないと実感できないのだけれど、その時は心の中が暖かくなるものですよ。ふとした時に「あ、そんなことを書いていた人がいたなぁ」と、思い出してみてください。

△上へ戻る