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2012年8月号より

1979年度生 中丸玲子

(県)千葉女子高等学校よりWashington州に留学
東京女子大学卒業
旧・東京銀行勤務
モルガン・スタンレー証券 東京支店勤務
通訳養成学校を経て
現在フリーランスで放送翻訳・字幕翻訳

自分が留学し、息子を留学させて思うこと

 2010年8月、私はワシントン州のPomeroyという小さな町に立っていました。IFの79年度生として10カ月過ごしたこの町を、再訪することはもうないだろうとずいぶん前に諦めていたのですが、ふとしたことから再訪が実現したのです。
 きっかけは2010年1月のある日、30年間クリスマスカードの交換だけを細々と続けていた友人から「今年はClass of 80が卒業30年の同窓会をやるので来ませんか」と言うお誘いとFacebookのinvitationが来たことでした。同窓会には行けないだろうと思いつつ、せっかくなのでFacebookのアカウントを作ったところ、翌日から次々と懐かしい友達からメッセージが届きました。 自分にとっては一生忘れられない一年にできた友人なので私はみんなを覚えていましたが、10カ月しか滞在していなかった一人の日本人留学生をみんなが覚えていてくれるとはあまり思っていなかったので、大変驚きました。さらに驚いたのは、30年前のお別れのときに「再会のご縁がありますように」の意味を込めて五円玉を小銭入れに入れてプレゼントしたらしいのですが(本人は忘れていました!)30年間それを見るたびにみんなは私を思い出していたと言うのです。メールもインターネットもなかった時代、今のように人と人が簡単に繋がることができなかった時代でしたが、見えない糸で繋がっていた絆に感激しました。このチャンスを逃したら、本当にみんなと一生会うことはないだろうと思い、思い切って30年ぶりの同窓会に行く決意をしました。
 Pomeroyに到着し、すぐに私は町を散策しました。一時間もあれば一周できてしまいそうな小さな町をゆっくり歩きながら、私の人生はここから始まったなと感慨深く思い返しました。IF生としてアメリカに留学して一人になった時にはじめて、自分がいかに家族や友人に守られ、支えられてきたかに気づきました。自分のことは自分で考えて決めなければならないと言う当たり前のことに気づいたのは留学のおかげでしたし、ここから本当の意味で自分の人生を自分の足で歩きだした気がします。また、留学生活ではつらいことを乗り越えなければならない時もありましたが、思いやりを受けることで思いやる気持ちを学び、常に物事をポジティブに発想転換させる力や自分の意見や気持ちを発信することの大切さなど、本当に多くの大切なことを学びました。
 そして私の留学から25年後の2005年、縁あって息子もIF生として留学することになりました。実は息子が留学したいと言い出した時、大変申し訳ないのですが真っ先にIFを勧めたわけではありませんでした。留学機関は私の時代より増えていましたし、昔と事情も違いますので他の留学機関も調べてみようと思ったのです。
 それでも結局IFで息子を留学させたのは、スタッフの皆さんが心から良い留学をしてもらいたいと言うお気持ちでご説明されていたことや、昔と同じように先輩たちが後輩をサポートする雰囲気が全く変わっていなかったからです。更に、事務所の住所もトレードマークも一切変わっておらず、これほど目まぐるしく変化する世の中でここまで変わらないものへの信頼感のようなものを感じたからです。春のオリエンテーションでは、一生懸命アドバイスをする先輩たちを見て、昔を懐かしく思い出すと同時に、ここまで変わらない雰囲気を保ち続けてきたスタッフや卒業生に感謝の念を抱きました。
 息子はあまり細かいことを話しませんので、彼がどのような留学生活を送っていたのかよく知りません。留学中はあまり連絡を取らないようにしていました。自分が留学していた時ははっきりと分かりませんでしたが、親になってみると留学している子どものことは当然気になり、連絡を取りたい気持ちはありました。しかし自分の留学を思い返してみると、親との連絡は月に一度手紙を書く程度、何かあっても一人で困難を乗り越えて問題解決できたことが後に大きな糧になったと感じていましたので、連絡は最低限にしました。息子の留学も楽しいばかりではなかったようですが、自分の力で多くを乗り越えてきたことが彼を大きく成長させたと、帰国した姿を見てすぐにわかりました。
 留学を希望する動機の大部分は「英語が好き」とか「喋れるようになりたい」ではないかと思います。しかし、自分が留学し息子を留学させてみて思うのは、留学からは語学よりももっと大きな収穫を得られると言うことです。常に前向きにチャレンジする姿勢やコミュニケーション力など、語学力以上に社会で役立つ能力を身につけることができます。また、感受性豊かな若い時に日本を外から見る経験を持つこと、日本人高校生とは違う考え方を持つアメリカの高校生の考え方に触れることは、自分の視野を広げるきっかけにもなります。
 私は現在、フリーランスの翻訳家としてテレビの報道番組の放送翻訳や字幕翻訳などの仕事をしています。海外のニュースからは世界が平和の方向に向かっていないことを思い知らされます。だからこそきっと、留学を経験した若者が留学で得た語学力や精神力を活かすことで役に立っていける場面がたくさんあると思います。そして、留学をそういう形で還元していくことこそ留学でお世話になった方々への恩返しであり、留学経験者に課された責務かなと考えるようになりました。私も最近、ささやかながら翻訳ボランティアで日本の中高校生向けに戦争や貧困で苦しむ世界の同世代の若者の情報を発信するお手伝いをさせていただいています。それが今の私にできる留学への恩返しと考えております。また、IFには既に世界でご活躍中の卒業生も大勢いらっしゃり、40年近くのIFの歴史がこうした形で結実していることを嬉しく思います。これから留学される方、留学中の方、あるいは留学を終えた方々が留学で培ったチャレンジ精神で今後益々ご活躍されることを期待しております。
 最後になりましたが、この度Newsletterの巻頭言を書かせていただく機会を与えて下さり感謝しております。過去の巻頭言は素晴らしい経歴の方々ばかりでおこがましい限りですが、留学生やこれから留学なさる方々、そして親御さんへの一助となればと思い、僭越ながら筆を執りました。最後までお読みいただきありがとうございました。

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