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2016年04月号より

2005年度生 伊 豆 明 彦

学習院高等科よりOregon州に留学
学習院大学法学部法学科卒業
東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了
西村あさひ法律事務所勤務

「決意」

国際弁護士になりたい!高校1年生のときにそう決意してから10年以上が経過した。今思い返せば、あれほど強い決意をしたことは最初で最後だったのではないかと思う。
 Newsletterの巻頭言を書いてほしいと依頼を受けてからどのような内容を書こうか考えていたが、留学に行くか迷っている中学生・高校生、そして留学を決意し、旅立ちを夏に控えたIF生に向けて、僭越ながらIF留学が現在の自分にどのような影響を与えているかを書きたいと思う。
 私は2005年にアメリカ・オレゴン州に留学した。留学をしたいと思ったきっかけは、国際弁護士として働くにあたり、英語が堪能であることは必要不可欠な能力だと思ったことにある。しかし、英語が上手になりたいという理由だけでは、なかなか親の納得を得ることができなかった。当時私は海外にも行ったことはなく、家族、親戚を含め身近に海外経験がある人はおらず、家族や親戚の留学に対する抵抗感が強かったことも理由としてあったのだと思う。
 確かに、英語力の向上は留学における最も顕著な成果の一つではあるが、それだけの理由で10ヶ月もの長期間の留学を認めてくれるほど甘くはなかった。そこで、なぜ留学をしたいのか、改めて考えることにした。具体的には、IFで既に留学をしていた先輩や同級生の話を聞き、なぜ留学をしたいのかをより詳細に考え、家族や親戚の説得を試みた。その当時どのようなことを言って両親を説得したのか詳細には覚えていないが、中学や高校の先生までも巻き込んで1ヶ月ほど説得し続けた結果、やっと留学を認めてもらえ、飛び跳ねるほど嬉しかった。
 留学に行くことが決まってから留学までの間は、IFのオリエンテーションに参加し、IF留学の先輩、そして一緒に留学に行くIF生と何度も会い、留学準備を進めていった。もちろん当時は留学に対する期待の方が大きかったが、同時に言い様のない不安もあった。そうこうしているうちに、出発当日を迎え、自分の中の気持ちを消化できないまま、期待と不安を胸に飛行機に乗ったのを覚えている。
 留学先では、すべてが新しい経験だった。留学初日にホストファミリーに連れて行ってもらったファミレスで電子辞書を使って単語を一つ一つ調べながら拙い英語でなんとか会話を続けようとしたことや、ホストファミリーの家に着いた後に見た満天の星空は今でも鮮明に覚えている。留学先での高校生活は毎日刺激的で、町の人たちみんなが応援に来る他校との交流戦、一人ひとりが主体的に参加することを求められる授業、そしてホームカミングやイースターなど日本とはまったく異なる文化に沢山触れることができた。
 もちろん留学中は楽しいことだけではなく、色々な壁にぶつかることもあった。言葉の壁、文化の壁、人種の壁。日本で生きていく上では、ぶつかることがない壁だ。ホストファミリーや留学先での友人たちとは、これらの壁のせいで何度も衝突したことがある。しかし、その度に自分の主張を伝え、ホストファミリーとも友人とも少しずつ打ち解けていった。ホストファミリーや友人たちとは今でも定期的に連絡を取り、お互いの現状をキャッチアップしている。
 留学を決意してから日本を旅立つまで、そして留学をしていた10ヶ月間は私の人生の中で最も充実した期間だったと思う。
 私は現在、西村あさひ法律事務所で弁護士として働いている。業務としては、M&Aを中心とした企業法務を担当しており、日本企業による海外進出案件や海外企業による国際的な組織再編案件、ベンチャー企業に対する投資案件等、様々な案件に関与している。海外の弁護士との共同案件も多く、留学中にベースを作った英語を日常的に使うことができている。幸いにも10年以上前に思い描いた国際的な企業法務に携わる弁護士になることができたのだが、留学が現在の自分に与えている最も大きな影響は、当初目的としていた英語力の向上ではなく、むしろ強い決意なのではないかと思う。
 英語力を向上させたいだけであれば、語学学校に通い、ネイティブスピーカーと定期的に会話をし、英語の文法を学ぶことでも十分身につけることができる。しかし、約1年もの間慣れ親しんだ日本を離れ、まったく異なる言語や文化を持つ異国で生活をしようと決意し、そのような環境の中で様々な壁に直面しつつも、ときにはそれを乗り越え、また受け入れるという経験は日本で普通の高校生活を送っていただけではなかなかできないものだ。
 仕事に忙殺され、しばらくの間立ち止まって自分のことを考えることができていなかったが、振り返ってみると高校時代の留学が自分に与えている影響はとても大きいのだと改めて感じることができた。大学院受験、司法試験、そして弁護士としての職務と厳しい環境の中での頑張りを支え続けているのは、自分の中にある強い決意なのではないかと感じている。
 最後になるが、留学に行くか迷っている中学生・高校生は自分がなぜ留学に興味を持っているのかをもう一度見つめ直し、自分の気持ちを決意に変えてIFの扉を叩いてもらえたらと思う。そして留学を決意し、旅立ちを夏に控えたIF生は今胸の中にある決意を大切にし、是非充実した留学生活にしてほしい。IFのNewsletterでは1年前にアメリカに行くことを決意し、充実した生活を送っている現役のIF生の現在を垣間見ることができる。彼ら/彼女らの充実した生活に触れることで、自分の気持ちを決意に変え、また今ある決意をより強固なものにしていただければ幸いである。

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