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2016年05月号より

1986年度生 田 嶋 雅 彦

(私)佼成学園高校よりペンシルバニア州に留学
上智大学理工学部電気電子工学科卒業
運輸省航空大学校本科卒業
日本航空 B787機長

礎(いしずえ)

みなさん、こんにちは。’86年度生の田嶋雅彦と申します。これから、私が経験した事と、留学から帰ってきた後の話をします。
 私は高校3年生の時にアメリカのペンシルバニア州で1年間過ごしました。もうかれこれ30年も前の話になります。留学が決まってから実際に行くまでの間、同じ86年度生で何度か集まり、勉強会のような事を始めました。今考えると、この時から留学が始まっていた気がします。勉強会と言っても、皆んなで集まって不安を解消する為に遊びに行っていただけかもしれません。ただ、テーマがありました。アメリカで生活するにあたって、日本の事を紹介できる様に、日本の事を改めて学ぼうと決めていました。神社って何?とか、日本人の習慣とか、普段気にしない事を学んでみると意外と楽しかった記憶があります。この頃に経験した事は、今でも記憶に残っていて、外国の人とコミュニケーションをとる時の武器になっています。外国語でコミュニケーションをとる時には、自分が知っていて相手が知らない話題ほど、自分が有利になりますからね。そして留学先では色々な事を聞かれます。きっと皆さん興味があるのでしょうね。我々が留学した時代は、今と違ってインターネットなんて当然なく、情報が少ない時代でした。「忍者を見たことある?」とか、「空手の技を見せてくれ」とか、よく聞かれました。また中には、「日本は中国の一部なの?」なんて質問をしてくる人もいました。アメリカやカナダからみたら、遥か遠い小さなこの国がどういう歴史をたどってきたのか、分からないのも当然です。自分たちの歴史や文化を知らないと、うまく説明できないかもしれませんよ。この当時の仲間とは、今でも連絡を取っています。
 さて、出発する日が近づくにつれて不安が大きくなりますが、意外と大丈夫ですよ、みなさん。飛行機に乗って、乗り継ぎを繰り返す度に仲間がバラバラになっていくのですが、なぜかその度に自分が大きくなった気がします。冒険に出た気分なんでしょうか。まだ何も始まってないんですけどね。そしていよいよ、「自分で何とかする」を実践していくわけですが、何があっても大丈夫です。一人で飛行機を乗り継いだり、次の飛行機を待つあいだブラブラしたり、時には飛行機が遅れて乗り継ぎが間に合わなくなる事もあるでしょう。預けた荷物が紛失することもあるかもしれません。それでも大丈夫です。アメリカやカナダに住んでいる人も同じ人間です。気持ちは通じます。不安そうな顔をしていれば誰かが声をかけてくれて、必ず助けてくれますよ。表情が豊かな人ほど有利かもしれませんね(笑)。
 最後の飛行機を降りると、いよいよホストファミリーとの出会いが待っています。飛行機を降りて、荷物を受け取って、到着ロビーに向かいます。きっとホストファミリーもドキドキしながらあなたの事を心待ちにしているはずです。到着ロビーに出てみると、あなたの事を探しているホストファミリーが手を振って笑っているでしょう。あなたは期待と不安が重なり合って、なんて声をかければいいのか分からないと思います。でもそんな時は、素直に「いま不安でいっぱいです。」とか、正直に言えばいいんです。何もカッコつける必要や、すましている必要なんてありません。正直に自分の気持ちを出しましょう。だって、目の前にいる人たちが、これからのおとうさん、おかあさんなんですから。新しい家族なんです。きっとあなたの事を大切に迎えてくれますよ。あなたが来てくれる事を待っていたんです。
 学校に通い始めると、また新たな出会いが沢山あります。この学校生活が留学のメインイベントになるのですが、本当に色んな事があります。楽しい事、悲しい事、嬉しい事、寂しい事。これら全て自分の肥やしになります。私ができたのですから、皆さんにも必ずできます。留学の真っ只中では辛い事も、必ずいい思い出になりますよ。そして学校に行く最初の日は、きっと心臓が口から飛び出るくらい緊張すると思います。知ってる人が誰もおらず、言葉もままならない状況で『自分で』なんとかしなければなりません。でも大丈夫。みんな通ってきた道です。色んな人が声をかけてくれることに、きっと驚く事と思いますよ。皆さんの日本の学校に転校生が来たと思ってください。皆さんならどうしますか?きっと転校生に興味を持って、話しかけると思いませんか?どこから来たの?前の学校ってどんなだった?クラブ活動ってやってた?まして、転校生が遥か遠い国からやって来たと知ったら、もっと色んな事を聞きたくなりませんか?それと同じことが起こります。そんな時の為に、今の自分の生活を英語で説明できるようにしておくといいかもしれませんね。当時のアメリカの友人達とは、しばらく遠のいていましたが、ここ数年Facebookなどのツールを使って連絡を取り合っています。久しぶりにお互いの写真を見て、時の移り変わりを恨んだりしています。「お互い歳をとったね」これが最近のキーワードかな。
 さて、ここからは帰ってきてからのお話をします。1年間という長い期間海外で生活をして、きっと自分ではさほど変わっていないと思う事でしょう。ところが、久しぶりにご両親に会われたら、きっとこんな風に声をかけてくれると思います。「大人になったね」と。長い人生の中のたった1年間ですが、大きく成長する1年間でもあります。他の人が経験できない様な事を経験するからでしょうが、こんな私もそんな声をかけてもらって、嬉しかった記憶があります。ご両親にしてみると少し寂しいかもしれませんが、そこは我慢してくださいね。お子さんが羽ばたく練習をしてきたのですから。
 私はいま、日本航空という会社でパイロットをしています。フライトと同時に教官業務や、訓練の内容を作る仕事もしていますが、当時の経験が役に立っています。英語は勿論の事、アメリカ人の習慣、考え方が分かっているだけで、仕事の進み方が違うものです。例えば、外国の人とコミュニケーションを取る時、彼らは必ずジョークを交えて良好な人間関係を築こうとします。このジョークが曲者で、アメリカの習慣や文化を理解していないと、理解できないものが沢山あります。同じタイミングで笑ったり、ジョークを返したりする事が出来れば、もうしめたものです。きっと彼らはあなたの事を仲間だと認めてくれるはずです。留学中のみなさん、理解できないジョークに悩まされていると思いますが、是非理解できなかった時は、どうして面白いのか聞いてみてください。アメリカやカナダの人の習慣や考え方が見えると思いますよ。
 留学時代に学んだ事は本当に沢山あり、30年経った今でも、「あの時のあれは、そういう事か!」と思う事があります。自分の考え方の基礎になっていると思う事も多々あります。機会があればもっとお話ししますが、是非、この機会を大切に、果敢に挑戦してみてください。きっと皆さんの人生を豊かにしてくれるはずです。いつの日か、皆さんを乗せて留学先までフライトできる日を楽しみにしています。その時は、太平洋の上でお話ししましょうね。

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