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2009年5月号より

1981年度生 勝間靖

(私)関西学院高等部よりPennsylvania州に留学
California 大学San Diego校留学
(私)国際基督教大学教養学部卒業
(国)大阪大学法学部卒業 大阪大学大学院法学研究科で修士号取得
(社)海外コンサルティング企業協会勤務
Wisconsin大学Madison校で博士号取得
国連児童基金(ユニセフ)メキシコ ・アフガニスタン・東京事務所勤務
(私)早稲田大学国際学術院 学術院長補佐および教授

「10年後どういう仕事をしたいですか?」と学生に問うと、残念ながら、明快な返答は少ない。夢を熱く語るのはちょっと、という社会環境のせいだろうか。日本で育つと、「宇宙飛行士!」といった大きな夢が周りの大人の笑顔で迎えられるのは、せいぜい小学生の間くらいかもしれない。中学生になると「もっと現実的になりなさい」と言われてしまう。

私のときもそうだった。中学3年生のときに聞いた講演に感銘を受けて、「国連で働きたい」と思うようになった。その講演者は、私の記憶が正しければ、文部大臣として国連大学を日本に誘致した教育社会学者、永井道雄氏(故人)である。そのとき、国連を目指すのであれば、まずは高校時代に交換留学するといい、というアドバイスも受けた。しかし、実際には、国連職員という夢を描いても、「もう高校生なんだから真面目に考えなさい」と誰も相手にしてくれなかった。

そこで、「まずは高校交換留学を」と思ったが、両親にも強く反対されて、半ば諦めかかっていた。悶々としていると、高校の柔道の授業で怪我をしてしまい、数週間にわたって入院することになった。毎日毎日、天井を眺めながら時間を持て余していたが、考える時間をたっぷり得ることにもなった。そうすると、今から考えると大袈裟なのだが、あるときに「人生は一度しかない、絶対に交換留学しよう」と思いが定まった。偉そうなことを言っていたものの、実は英語を苦手としていた私は、母にラジオカセットを病室に届けてもらい、それからラジオ講座を録音しては何度も聞くという「にわか勉強」を始めたのである。

退院後、両親を説得する日々が続いた。執拗に頼んでいると、父はいちいち答えるのが面倒になったのか、最後には「そんなに交換留学したいなら、自分でお金を稼いで行ってみろ」と言うに至った。売り言葉に買い言葉で、「それなら自分で稼いで交換留学してやる」と私は反射的に答えていた。そうは言ったものの、高校生の自分にとって、学校にちゃんと通いながらできるアルバイトはすぐに思いつかなかったのだが、しばらく探していると、新聞の朝刊を配達する仕事にたどり着いた。朝の3時半に起床して、4時から2時間近く配達した後、1時間かけて高校に通学、という生活は辛かった。しかし、今さら辞めるのも格好悪く、雨の日も風の日も、200部ほどの新聞を積んだ自転車を操縦し続けた。今では、懐かしい想い出となっている。

そうした努力の甲斐もあってか、IFの試験に合格し、米国ペンシルベニア州の高校へ交換留学することができた。さて、米国に住んで驚いたことは、「国連で働きたい」という私の夢を応援してくれる人が多かったことだ。留学中、IF生として東海岸旅行に参加したのだが、ニューヨークでは国連本部ツアーに参加する機会もあり、「ここが自分が将来働くことになる国連か」と単純に決意を新たにしたものである。

それから15年後、結局、私は国連職員になったのだが、それは「夢」を捨てなかったから実現できたのだと思う。とくに、高校交換留学中、その「夢」を具体化するのに必要とされるキャリア設計のため、多くの励ましとアドバイスをもらった。また、日本に帰国後、当時にIF日本事務局長だった井上清子氏が、IFプログラム終了後にもかかわらず、引き続き励まして下さったことは、大学進学を決める上でも大きく影響した。関西では名前を聞いたことさえなかった国際基督教大学へ進学することになったのは、私の「夢」を真剣に聞いて下さった井上事務局長のアドバイスもあってのことであり、今では本当に感謝している。

今、高校交換留学を考えている皆さんは、これからグローバル化時代を生きることになる。地球規模の課題が山積するなか、個々の利害を超えた国際協力が必要となる時代である。そこで求められる人材は、与えられた問題に対して前例に沿った解を出すというタイプではない。むしろ、将来ビジョンをもって、政策アジェンダを自ら設定し、その課題の解決方法を熟慮しながら、国際的な舞台で利害が対立する関係者から合意を引き出す交渉力や指導力が期待されている。実のところ、私が国連に入って気がついたことは、国連は目的ではなくて、手段であるということだった。地球規模の課題を解決するという目的へ向けて、私たちは、国連を手段として活用しなければならないのだ。

高校生の皆さんには、次世代にとっての国際社会を思い描き、そこでの自分の役割と仕事を考え、そのためのキャリアを設計してほしい。グローバル化時代に必要とされるビジョン、交渉力、指導力を身につけるためには、高校交換留学は絶好の機会だと思う。まず、10年後の夢を語ろう。高校交換留学を含め、10年計画で取り組めば、たいていの夢は現実化できるものである。私自身の28年前を振り返ったとき、かつて私も経験した高校交換留学を皆さんにお勧めしたい。

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