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2014年11月号より

2005年度生 宮 川 雅 矢

(私)学習院高等科より Nebraska州に留学
(国)東京農工大学・農学部・環境資源科学科卒業
(国)東京農工大学・大学院生物システム応用科学府・物質機能システム学専修・博士前期課程修了
同、博士後期課程1年次在籍・東京農工大学リサーチ・フェロー兼任
中央大学理工学部応用化学科・助教授着任予定(2015年4月より)

変化を求めませんか

 私がアメリカに留学したのは10年前である。当時は英語を流暢に話せたわけでもなく、海外はどこか遠いところとしか思っていなかったが、部活や予備校といった平々凡々な3年間を高校でも過ごすつもりはなかった。そんなときIFを知り、自分の知らない世界に触れたいと思い、飛びつくように留学を決意した。以下、IFでの高校留学(以下、IF留学)で私が何を考え、自分の将来を現在どのように捉えているのか、私なりのアドバイスを足しながら述べる。
 知らない世界に触れるというのは、変化を経験することである。進学や就職にともない、自分の環境は必ず変わる。そのときに知らないものを避ければ見える景色は広がらないし、受け入れれば広く多様な景色が見えるように思う。
 IF留学は変化を受け入れることに慣れる良い機会である。部活や教会への参加とか、新しいことへのチャレンジなどが慣れるコツである。どちらの場合でも新しい発見がある。たとえば、留学前の私はチームプレーが大の苦手、自分の実力がそのまま結果になる陸上競技と将棋が趣味、という個人主義な性格だった。しかし、夏はクロスカントリーではなくアメリカンフットボールを、バスケットボール、レスリングではなく演劇を選んだ。その結果、独力では思いどおりにならないもどかしさだけでなく、初心者であることの大変さにも気づかされた。特に後者は重要である。部活、アルバイト、仕事どれをとっても必ず誰しもが初心者からスタートする。自分が慣れた頃に後輩や新しい同僚が入って来たとき、留学時には何をやっても初心者だった自分を思い返すと、何がわからず、何が不安であるか考えるきっかけになる。
 留学を通してさまざまな経験を積むと、具体的にはどのようなメリットがあるのだろうか。略歴のとおり、私は大学院生(兼研究員)で、現在の専門は分子分光学という1分子の構造や反応を研究するミクロな学問である。平日の日常をラフに書けば、自分や共同研究の実験、文献調査、学会発表、論文執筆である。週末は研究の他に、趣味である料理と掃除を楽しむ。研究はIF留学と関係なさそうだが、実はそうではない。まず、ほとんどの論文は英語で書かれている。次に、国際会議での発表は、質疑応答を含めてすべて英語である。さらに、論文執筆でも英語は必要である。高校までは英語を勉強するが、大学によっては一部の講義は英語でおこなわれ、邦訳版がない専門書は英語の原著で勉強する。そのため、道具として英語を使いこなせることは最低条件である。趣味は文字どおり趣味だが、海外のwebサイトやレシピ本を読むときに役立つほか、分子ガストロノミー(Molecular gastronomy:物理化学の知見を料理に応用した学問)の勉強に役立つ。研究や趣味以外では、本学大学院や知り合いの会社のwebサイトの英語版を依頼され、作成している。
 気前の良い話が続いたが、ところでIF留学をためらうことはなかったのか、としばしば尋ねられる。私の場合は、「学業を心配して同じ環境に留まるより、新しい世界に触れたい。」と思ったため、ほとんど迷うことなく留学した。ちなみに、私のように変化を求めて行く人もいれば、純粋に英語を話せるようになりたいと思い行く人、異文化に直に触れたいと思い行く人もいる。つまり、理由は何であれ留学は”行きたいから行く”くらいの意志に基づいて自分で選ぶものなのだろう。もちろん、IF留学では楽しい経験とともに苦労も味わう。たとえば、多くのIF生が最初の3ヶ月は聞き取りに苦労する(私の場合は4ヶ月だった)。そのほかにも、日本語だったら簡単な内容の宿題がなかなか終わらないとか、日本にはない科目で取り組みづらいとか、月並みな苦労をしつつも、ホストファミリーや友達と過ごす楽しい時間、アメリカ・カナダならではの行事、など10年経った今でも忘れられない経験もできる。
 このように、私はIF留学して良かったとすでに思っており、これからもまたそう思うときが来るだろう。高校生は将来の目標や夢から逆算して、主に学業面でさまざまな決断を迫られる頃である。そのようなときに、IF留学で将来の夢が見つかれば、それはとても良いことである。しかし、私のように「この10ヶ月の経験をもとに、どのような人生を計画し、そのためにどのような大学に行こうか。」と考え始めても遅くはない。また、決断には結果と評価が付き物だが、どちらもあまり思い詰めない方が良い。結果を求めすぎると目的と手段が逆転し、こんなはずじゃなかったと後悔することもある。評価は他人が下すものなので、矜持と忸怩を右往左往しても評価は変わらない。また、目の前の人に評価されなくても、自分の哲学を持っていれば、それに共感して支持してくれる人に出会えることもしばしばである。
 多くのIFのOB・OGと同様に、私も決断と評価を通して現在に至り、在学中に助教授のポジションを得られた。その特殊性(博士課程の短縮2年分と博士研究員のスキップ)のためか、万事うまく進んだとか、研究が生き甲斐だとか思われがちだが、決してそうではない。学生として研究に4年従事しているが、すでに2度も研究拠点が変わっている(普通は6年間で0回、せいぜい1回)。また、4月からは研究を進めるだけでなく、指導する立場にもなる。しかし、私の夢は研究ではなく、趣味の料理で、それには英語が必要である。つまり、職業≠将来の夢という人もいることを留意してほしい。むしろ、働きながら達成したい将来の夢というのは、達成が難しいのかもしれない。いまアメリカ、カナダにいるIF生も職業以外で何かやりたいことに取り組むとき、IF留学して良かったと思い返す瞬間が来るかもしれない。だから、たとえば希望する大学や会社に入れればIF留学が成功、入れなければ失敗、と考えないでほしい。
 最後に、留学中に思いどおりに進まないときは、「そういうときもある」と思い、前に進むことをアドバイスとして送る。そうそうないことに遭遇したときでも、使えばなんとなく落ち着いて気分が晴れる魔法の口ぐせである。短期的に物事を判断せず、焦らずに状況を俯瞰(ふかん)できれば、そこから湧いた興味が新たな活動を始めるきっかけとなり、得られた経験がどこかで互いにつながり、予期せぬ大きな成果をもたらすかもしれない。
 皆さんも変化を求めてIF留学するのはいかがだろうか。

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