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2017年05月号より

1979年度生 三ツ目信二郎

早稲田大学高等学院よりウィスコンシン州に留学
早稲田大学理工学部電気工学科卒業
日本航空 B787 機長

心の貯金

 はじめまして、1979年度生の三ツ目信二郎と申します。高校生の皆さんにとっては1979年は歴史、否、太古の昔といった感覚でしょうか?私にとっても、もう38年前の事になります。
 高校入学後、IFで留学した先輩の話を聞き自分もチャンスがあるなら行ってみたいと思うようになりました。家から出たい、外の世界を体験してみたい、英語がうまくなりたい。動機はどれも単純なものばかり。あまり高尚なことは考えず、行動あるのみという感じでした。高校1年のときにIFの試験に受かり2年の9月から10か月間アメリカで過ごしました。17歳という多感な時期を異文化の中で生活し、勉強したことは今も自分の財産になっています。
 当時IFのスタッフをしていた筑波大学のギリアン先生という方が留学が決まった高校生を集め、代々木のオリンピック村の教室を借り週に2回、ICC (Inter Culture Communication) という名の勉強会を半年以上開催してくれました。残念ながら東京近辺の高校生しか参加できませんでしたが、この勉強会は非常に有意義でした。男女学年を問わず仲間ができ、事前の情報も収集できたため何の不安も無く?留学することができました。
 1979年9月、仲間と共にサンフランシスコへ。何を隠そうこの時初めて飛行機というものに乗りました。その後シカゴで乗り継ぎ、ウィスコンシン州のWAUSAUという田舎の空港へ。到着は夜遅く。ホストファミリーに連れられ、これから過ごす家へと向かい、その晩はすぐに就寝。翌朝起きて、家の周りのあまりの田舎さ加減にビックリ!! 畑と牧場と森、隣の家は遥か彼方。東京生まれ東京育ちの私には、あまりに自然豊か。
 ホストファミリーは5人兄弟で、長男が私の一歳上、以下男女男男と構成でした。スクールバスで兄弟たちと学校に通っていたので、不安はありませんでした。
 特徴的なのは家族総出でメイプルシロップを作っていたことです。冬に雪をかき分け何千本というカエデに穴の開いた金属のクサビのようなものを打ち込みます。それにはフックがついているので、そこに10Lはあるかと思われるバケツを引っ掛けておきます。2、3日でバケツ一杯にカエデの樹液が溜まります。それらを荷台のついたトラクターで回収し何段階にもわたり何日も煮詰めると、メイプルシロップの出来上がり。かなりの美味でした。ガロンビンに詰め販売していました。
 私が日本に帰るときに、お土産に1ガロンくれました。しかし、残念なことに日本でふたを開けてみると、見事にカビていました。防腐剤など全く使っていないので、日本の湿潤な気候ではもたなかったようです。今考えても、せっかく作ったメイプルシロップを日本の家族に味わってもらえなかった事を残念に思っています。
 大学はそのまま早稲田大学理工学部電気工学科に進みました。大学の正規の部活である航空部に入部し、学生時代はグライダーばかり乗っていました。おかげで人に操縦を教えることができる教育証明という国家資格まで取得することができました。
 アメリカ留学と航空部の経験が今のパイロットという職業に自分を行かせた気がします。
 今、私はB787という飛行機を飛ばし北米、ヨーロッパ、オーストラリア、東南アジアやインドなどに行っています。かつてはB747にも乗っていたのでそのときはメキシコやブラジルにも行っていました。世界中どこに行っても感じることは、人は皆同じであるということです。似たようなことで、喜び、悲しみ、泣き、そして笑います。幸か不幸かどこに行っても高校留学で感じたほどのインパクトはありませんが、今でも行った先々で新しい発見があります。
 今、これを読んでいる高校生のみなさん、心を柔軟にして回りを見て下さい。きっと様々な事を感じられると思います。それらを大切にして下さい。高校留学の真価は、みなさんが大人になったときに必ず現れます。
 健康に気を付けて、楽しい留学生活を送って下さい。将来行って良かったと思える瞬間が必ず来ます。その瞬間を楽しみにして下さい。高校留学は自分の未来に対する心の貯金です。

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