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2012年5月号より

1976年度生 小原克己

早稲田大学高等学院よりMassachusetts州に留学
早稲田大学政治経済学部卒業
新日本製鐵(株)入社
フランスINSEADへMBA留学
現在新日鉄ソリューションズ(株)勤務

高校留学の意義についての雑感

 私がIF留学したのは、1977~1978年ですから、今から34~35年前になります。オイルショック後の日本の小型車ブームをはじめ、日本の工業製品がアメリカ市場でシェアを伸ばし、日本経済が世界で脚光を浴びていた時代です。「ジャパンアズナンバーワン」の出版が1979年でした。
 私が留学したのはMassachusetts州のLeeという、人口5000人位の町です。Massachusetts州は岩手県より少し大きい程度の小さな州で、東西に長く、東側は大西洋に面して大都市Bostonがありますが、Leeは州の西端にある山あいのNew Englandらしい緑豊かな町でした。夏は自然の湖で泳ぐことができ、秋は見事な紅葉があり、冬は雪に埋まり、春になると緑が一面を覆うという自然環境でした。東京で育った私には、田舎の小さな町での自然に包まれた生活は非常に新鮮でした。
高校では、サッカー部、ミュージカルWest Side Storyへの出演、学校で定期的に開かれるダンスパーティなどを思い出します。授業では、American Historyが特に印象深いです。200年少しのアメリカの歴史ですが、独立宣言・西部開拓・南北戦争・奴隷解放・経済成長・東西冷戦という変化に富む歴史は非常に興味深いものでした。
 1年間のアメリカ生活では、楽しい思い出がたくさんある一方で、つらかった思い出もたくさんあります。地元新聞のインタビューで、自分の本意でないことを記事に書かれたこと、American Governmentの授業で地域に根差した問題についてのクラスが続き、本当に全く授業が理解できなかったことなどを思い出します。
 日本でできない経験が期待できる一方、生半可でない苦労や悩みを伴う高校留学の意義を、今あらためて考えると、やはり異文化(考え方・価値観)を理解することだと思います。日米逆の例になりますが、私が留学から帰国した翌年、日本に来ていたアメリカ人IF生が日本での生活に馴染めず悩んでおり、相談に乗ったことがあります。彼女は関東近県の高校に留学しており、家族全員で炬燵に入ってテレビを見なくてはいけないという生活が耐えがたいと言っていました。彼女の未熟さも多分にあったと思いますが、日本人がアメリカで経験する以上の異文化体験を強いられていたと思います。高校生の留学は、ホストファミリーという逃げられない環境なので、場合によっては耐える事が必要な時もありますが、感受性豊かな高校生時代の異文化体験は、将来に大きな財産になると思います。
 私は、大学卒業後、新日本製鐵(株)へ入社し、原料(鉄鉱石・石炭)の輸入業務、製鉄所の人事総務業務を担当しました。豪州等の鉱山会社・船会社とのビッグビジネスにおいても、基本は先方との信頼関係が基本であり、信頼するためには相手を理解することが前提であることを痛感しました。
入社8年目にはフランスINSEADへMBA留学しました。INSEADは、欧州を中心に30カ国以上から学生が集まっており、例えば8人のグループワークにおいても全員の国籍が異なるのが普通です。当時は、欧州復興開発銀行の奨学金でロシア・ブルガリア等の東欧の留学生も多く、また中国からの留学生もいました。
 MBA留学帰国後は、新日鉄の新規事業部門(現在分社し、新日鉄ソリューションズ(株))に携わり、営業部門を中心にキャリアを過ごしてきましたが、中国市場開拓も担当しました。
 こうした国際業務の中で感じたことは、国際ビジネスで成果を生むためには、個人ベースでの信頼がつくれるかどうかが勝負です。信頼は、繰り返しになりますが、相手を理解し尊重することです。私にとって、高校留学経験がそのベースとなっていると思います。皆さんが将来社会に出て直面するのは、もっともっとグローバル化した社会でしょう。英語を公用語とする企業も出てきているように、グローバルな異文化環境で仕事をすることが当たり前になる時代に入ろうとしています。あなたの上司や部下は外国人である可能性が結構あります。異文化のチームでリーダーシップを発揮するためには、相手を理解し最適な方法を見つけていこうとするコミュニケーション能力こそが最も重要な能力です。
 最後に1点アドバイスをさせていただくとすると、英語力のレベルアップにぜひ努力して欲しいということです。英語はコミュニケーションの手段でしかないのですが、社会に出てからの強力な武器になります。高校時代の吸収力の高い時期は二度とないので、ぜひ頑張ってください。これから留学をしようとしている皆さんは、ぜひ留学前に一段高いレベルへ進んでから留学してください。留学による英語力向上は、その一段高いレベルから積み上げることができるのですから。
 それでは、皆さんの健闘をお祈りします。

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