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2011年2月号より

1994年度生 山盛 省作

立教高等学校よりWisconsin州に留学
St. Clare's Oxford 卒業
Royal Holloway校London University卒業、 経済経営学士(BSc)
PricewaterhouseCoppers Consulting
Philip Morris Japan K.K.勤務

異文化と私

 '94年の夏、私の高校留学が始まった。Wisconsin州南部のMiltonという小さな田舎町での1年間、あっという間に過ぎた1年だった。短い時間で、中身が濃く、多くのことを学び、感じた。色々な事に感化される高校時代に異文化の中で生活することが私自身に大きな影響をもたらした。今の私を支える原点であり、私の人生を大きく変化させた分岐点でもある。高校留学がなかったら、今の自分はいないだろう。
 簡単ではあるが、アメリカへの留学経験がどのように影響したのか、久しぶりに自分自身が歩んできた道を振り返りながら説明したいと思う。しばらくお付き合いいただければと思います。
 今から15年以上も前のことだ。緊張しながら成田で、両親、友人、事務局の方々、先輩が「いってらっしゃい」を言う姿を今でも昨日の事のように覚えている。私の心の中は、どんな経験をするのか高ぶる楽しい気持ちと、アメリカでやっていけるか不安な気持ちが入り混じっていた。
 到着してから最初の3ヶ月は、試行錯誤しながらの生活だった。英語力が大した事のない為、学校の授業の理解や宿題に苦しみ、毎日遅くまで教科書と奮闘した。留学体験について感じる前に、正直いって孤独、挫折、自己嫌悪との直面の毎日だった。とにかく負けるもんかと、毎日頑張った。その努力が実り、数ヶ月した頃には、授業や生活に慣れ、友人との交流も深まり、遊びに行ったり、クラブ活動を楽しめるようになった。必死だった毎日から楽しい日々へと変わっていったのだ。
 楽しい中、私は決められた時間の中で沢山のことを体験しようと、何でもやってみた。異文化の環境に入っていくことで、日本とは違った生活習慣と価値観を感じられた。すべてが印象的で、心の中に残っている。影響され、物の見方や考え方が変わるきっかけになった事は言うまでもない。留学後も今も役に立っている。その中から特に印象に残っている事を書きたいと思う。
 まず印象的に残っている事は、普段当たり前な事が当たり前ではなかった事である。例を挙げれば、日常生活での洗濯。日本では、ありがたいことに母親が自分の汚れた服を洗濯してくれ、乾いた衣服を畳み、部屋に入れておいてくれていた。今思えば、いつも「わかった」と言って、「ありがとう」と言った記憶はない。
 アメリカの生活では、自分の事は自分でやる事が当たり前だった。恥ずかしながら、母親がやってくれるのが当たり前だった私は、洗濯機の使い方もろくに知らなかった。汚れた服を洗濯機にいれて、洗剤をいれて、ボタンを押せば完了、簡単な事だと思っていた。いざやってみると、白い洗濯物が洗い終われば薄いピンクになっていたり、乾燥機から出してみれば、子供服の大きさになっていたりと失敗の連続。今は笑い話だが、当時の自分にはショックだった。こんな簡単なこともできないのかと思った。母親が今までやってきてくれた事のありがたさを痛感した。
 今の皆さんはどうですか?当たり前の事のように思っていますか?毎日母親に「ありがとう」と言っていますか?留学後、いろいろと自分の事は自分でやるようになった。また、誰に対しても、何かしてもらったら「ありがとう」を言うことは忘れていない。
 もう一つ、大きく私の人生を変えたことがある。正直、非常にショックを受けた事でもあった。将来の目標と行動力だ。
 私は高校2年の夏にアメリカに行った。留学後は、みんなは高校3年生ということもあり、留学後半くらいから進学についての話題がよく出ていた。友人の話を聞いていると、希望大学、専門教科、そして授業料がどれくらいなのかを調べていた。そんなに大学によって授業料が違うのかなと思い、友人に聞けば、みんなは大学の授業料を払うためにアルバイトをして貯金していたので、授業料の金額は重要だったのだ。両親が大学の費用を出してくれることが当たり前の事と捉えていた自分には、ショック以外の何でもなかった。
 彼らにはやりたい勉強があり、行きたい大学がある。だから、必死になってお金を貯める。自分はどうだろう?当時の自分は何も考えてなかったし、やりたい事も分かっていなかった。周りが大学に行くから自分も行く、後で就職に役に立つから行くといった理由ぐらいだった。大学でやりたい勉強があるから行くなどとは考えてもいなかった。好きな科目、嫌いな科目があり、やりたくない事が分かっていたくらいだっただろう。
 留学後半から、何をやりたいのか悩む日々が続いた。日本では、将来どんな事をしたいのか、明確な目標をもって勉強している友人は周りにいなかったし、ましてや小学生の時と違い、将来について話すこともなかった。恥ずかしくて友人に相談できなかったのも事実である。
 帰国してからも、何をしたいのか?何を勉強したいのか?頭を悩ませる日々は続いた。答えは出なかったが、悩んだ結果、海外での経験から学ぶことが面白く、斬新で、自分にもたらすものが多いと考えた。何よりも、自分が歩む方向について、異文化で感化されることで深く考えるようになった。安直ではあるが、もう少し長く異文化に触れられれば、自分のやりたい事が見えてくると思った。親にお願いして、日本の高校を中退し、イギリスの高校へと再進学することに決めた。サポートしてくれた親へは感謝の言葉以外何もない。
 イギリスの高校で、私は再スタートを踏み切った。新しい場所で、新しい友人を作り、環境に慣れ、色々と経験した。アメリカでは、ホストファミリーがいたので何かあれば頼れたが、イギリスでは、自分一人。アメリカ留学の時より自分のことを自分でやらなければならなかった。しかし、自分自身の面倒をみることが少しはできるようになっていたので、環境に慣れるのは以前より早かった。アメリカでの生活がなければ、より悲惨なことになっていたに違いない。
 イギリスの大学へ進学する頃には、大学で勉強したいこと、将来やりたいことが見つかった。もちろん、見つけるまでは悩む、悩むの毎日だった。ただ、前を見て進むだけだった。前に進めば、進むほど精神的に自分がタフになっていき、親から離れて生活することで、自分自身の成長もある程度できたと思う。
 私は留学を通じて、異文化と触れあい、沢山の事を経験・発見し、精神的に鍛えられ、色々考えるようになった。そして思ったら行動するようになった。その時から私は、ゼロスタートと自分に言い聞かせながら前に進んでいる。ゼロスタートと聞くと、悲観的に聞こえる人もいるかもしれないが、私にとってはやる気が起きるおまじないのような言葉だ。なぜなら、新しい経験、発見、人との出会いが待っており、気持ちが高ぶるからだ。
 これから留学するみなさんは、アメリカ留学を通してどんな経験・発見・出会いをするのでしょうか?留学して、皆さんの何が変わるでしょうか?同じ経験をする人はいないので、是非たくさんの事を経験し、発見してきてください。自分自身の留学経験を創ってきて下さい。
 「いってらっしゃい。」
 そして今回、自分自身を振り返る貴重な機会をいただいた事務局の方へ、また、今の自分に至るまでサポートしてくれた両親、ホストファミリー、先輩方、留学で出会ったみんなへ
「いつもありがとう。」

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